2015年6月19日金曜日

名人の湯加減

先日歌舞伎座で「新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)」を観劇したのですが、その中の「正宗内」の上演はかなり珍しく20数年ぶりのことだそうです。
あらすじを書くと長くなるので、端折りますが、刀鍛冶正宗が出てくる話で、本来は一子相伝の秘術を息子の団九郎ではなく、来国行の息子の国俊に伝える段の場面。

風呂場で正宗が、国俊野の手を取り湯に中に入れて、秘伝を授けるのですが、これは、刀鍛冶の焼き入れの際の一番ベストな温度なのです。
それを、正宗の息子の団九郎が湯に手を入れた瞬間に正宗が腕を切り落としすという凄惨なシーンでした。


あまり、刀鍛冶に詳しくない方のために説明すると、刀を鍛える時に地金を真っ赤に焼き、ちょうど良いタイミングで水の中に入れるのですが、季節や気温で相当違うのでそうです。
暖かい季節に冷たい水に入れたり、寒のうちに天然の水に入れたりすると刀はヒビだらけになってしまうのです。
そこで、ほんの少し温めて、ぬるま湯にしておくそうで、温か過ぎると焼きが甘くなるのです。
この話は天皇の料理番、秋山徳蔵の『味と舌』の中の「道具と器・包丁」の項ににも出てました。
やはり、この時代の人はこうゆう話は知っているのですね。
秋山徳蔵のエッセイでは、腕は切り落とされても、盗みとった水加減の感覚は残っているので、その後片腕でも立派な刀鍛冶になるというお話でした。
江戸から明治にかけて廃刀令が出て、刀鍛冶が包丁鍛冶に転身した時に、関東では世田谷辺りに集まったそうです。
その名残の「世田谷ぼろ市」には昔、良い包丁が沢山出ていたそうです。
これは知人の古物商、魚柄仁之助さんに聞いた話でした。

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