2012年11月22日木曜日

職業としてのフードライター……4


明治時代に村上弦斎という御仁がおりました。現在の知名度はどうなんでしょうか。
村上弦斎は小説家で、一番読まれたのは『食道楽』という本です。明治時代には徳富蘇峰の『不如帰』と並んで大ベストセラーになっているのです。
内容は小説の形を取りながら、物語の筋に600以上の料理や食材がはめ込まれているのです。
現在手元にあるは岩波文庫版『食道楽』(上下)で、中身を読んでいると、日々連続の連続で、何だかブログを読んでいる気分なります。

春夏秋冬の構成で、ランダムに見出しのみ書いてみると、まず春の章酒の洪水、酔醒め、南京豆、大食家、自慢料理、豚料理、豚の刺身、胃袋、脳と胃、物の味、万年スープ、料理の原則、五味、鶏卵の半熟……。
米料理、味自慢、腹具合、硬い肉、蕨のアク、海苔巻き、程と加減……。
鮎の味、下等料理、昆布スープ、食物研究会、合い物、ライスカレー、琺瑯鍋……。
滋養スープ、牛の脳味噌、松茸売、肉の区分、パンの種、林檎のパイ、兎のシチュー……。
と、まぁ、こんな内容が600話以上あるのです。あらためて読み直すと、明治期にこれだけの内容で食について書かれていたのには驚かされます。
一応流れは時間での小説の形を取っているのですが、筋と関係なくそれぞれの項目を読んでも面白いのです。

村上弦斎は、幼少から漢学を学ばされた上にロシア語の家庭教師がつき、12歳で東京外語学校に入学しましたが、勉強のし過ぎで体を壊し、中退します。
渡米して英語も学び、新聞記者から小説家・大ベストセラー作家になります。平塚の大豪邸に住みながらも、断筆後は竪穴住居に住んで、自分で生きた虫や加工しない自然の食べものしか食べなかった……。
どうですか、相当面白い人物ですね。興味津々です。ある意味で今日の食をすべて一人で実践し、思考し、執筆したのです。
これはスーパーフードライターそのものです。現在こんな形のフードライターはどのくらいいるでしょうか。この時代の少ない情報量を考えると、知識や中身のコンテンツも凄いものがあります。
少なくとも、これからフードライターを目指す人は一読しておくべき本ですね。
(つづく)

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