2012年7月27日金曜日

料理屋で大声で話す客


昔、アメリカの学者の説で「ある空間の中で、一定以上の声でしゃべる人間は頭が悪い」というのを読んだことがあります。
大きな球場で大声で声援を送るのは場所柄問題はないのですが、狭い店で大声で話す客くらい神経に障ることはありませんね。

とある場所にとある鮨屋があり、ちょいと繁華街から離れていて、佇まいも料理も程がよく通っておりました。
通いはじめたのは店が開店して1年程の頃でしょうか。清潔な店内で、カウンター自体に直接お造りや鮨を置く静かな店でした。
ある晩予約して店に行った時のことです。L字型のカウンタ-にハルコとオクサマは入口側の短い方に、長い方には角から3人の男性が座っていました。
全員スーツ姿で、話からすると中央にいる男性が上司らしく、部下を連れて食べに来ていたようです。
この上司さん、やたら声がでかい! でかいだけではなく、声が通り振動するようなしゃべり方をするのです。
部下は部下でお追従の笑い声が二重唱で、ハウリングしてしまう。
 二組が先客でいて静かに鮨を食べているのですが、自分たちの話し声も聞き取りにくいくらいうるさい情況なのです。

どうもバカ声上司は、ここの鮨屋に連れて来たのが自慢なのか、鮨が出てくるたびに、ウンチクを話して、主人の腕前を褒めちぎる。
頭の中で、小学生が自分ちに友達を連れて来て、持ち物を自慢している姿を想像してしまいました。
いつか静かになるかと待っていても、さらにお酒が入って声が一段と高くなる。
ハルコのL字の角側にいる部下に至っては、左手で鮨を掴んだまま、お追従笑いをして、鮨を空中でくるくり3分も廻している。視界に回転して一向に食べれない鮨が入ってきて不愉快!
オクサマはもう店を出たいとまで言いはじめ、他の客も随分迷惑そうな顔。
ハルコは調理場の暖簾の奥にいる女将さんに、「静かにさせてもらえませんか?」と、掛け合いましたが、困った顔をするのみ。
席に戻ったハルコ、ついに堪忍袋の尾が切れて、空中でまだ鮨を回転している部下の椅子を蹴って「うるさい!静かにしろ!」
 店は一瞬のうちに静寂に……。

昔の鮨屋さんでは、大将が上手に客をあしらったり、叱ったりしていたもんです。
目黒で通っていた鮨屋のオヤジさんの口癖は、「失礼だが旦那、鮨が乾いてしまいやすぜ」と低い声で鮨を放置している客を戒めていました。
何も言わずにニコニコして鮨を握っている若いご主人は、その時にどう思っていたのでしょうか?

店と客は単に料理を提供し、その対価を支払うという関係ばかりではなく、客に客としてのあり方を教えたり、教わったりする関係だと思っています。
単に旨いものが安く喰えれば良いのではなく(そのことを否定はしません)、客が客として成長する場でもあるのです。
事実ハルコは色々な店の料理人や女将、マダムから勉強させていただきました。

暫くして、その鮨屋のご主人から詫びの手紙をいただきましたが、それ以来暖簾はくぐっておりません。
その店を紹介してくれた友人によると、店は静かになったそうです。

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