2012年6月27日水曜日

阿部なを

さて、表題の「阿部なを」さんのことを、現在どのくらいの方が覚えているでしょうか?

相当昔のことに詳しい方でないと知らないと思いますが、事務所の書架をボーッと見ていたら『おばあちゃんの台所修行』というタイトルが目に入りました。著者は“阿部なを” 昭和60年の発行ですが、版元の鎌倉書房も倒産して現在はありませんね。
27年前に読んだ記憶があるのですが、完璧に忘れていました。パラパラ読んで記憶を呼び起こしました(以下は抜粋です)。





暮らしの基本を忘れて久しいです。
基本となるべきもの、すべてが替わってしまうのも時の流れで、
自然のこと、それについて行けない私のほうが、むしろおかしいのかもしれません。
「足るを知る」なぞ死語となり、足りない、足りないと求め続けて、
歯止めのない生活が、本当に人間を豊かにするのでしょうか……。
不足のものを補おうとする心のくばりのあるのが人間なのに、
その心がなえてちぢこまって、物質に負けてしまいそう。
米と味噌、醤油、塩、みりん、かつお節、煮干し、砂糖、蜂蜜、油、
これだけでも多すぎるくらいに思われるのです。
たぶん、現在はこの何倍かの調味料が出回って、
自分の味をもてない人たちを迷わしているのでしょう。

日々、“食の追求”という名目で色々なものを食べていますが、暮らしの基本のことを再考せねばと、改めて思い返しました。

阿部なをさんは1911年青森に生まれ、1996年に85歳で没し、数えれば生誕100年ですね。
人形作家としても活躍しましたが、上野松坂屋に山菜料理の店を開いて、上野駅前にみちのく郷土料理店「北畔」を開き、料理研究家として一時代を築かれた方です。
彼女の生前、はじめて編集者に「北畔」に連れて行かれた時に、煮物の鍋の底がひしゃげているのを聞いたら、阿部なをさんが「こんなものでもちゃんと役に立っているのよ」とおっしゃっていました。
白髪を丸髷にして襷をかけた姿が大変凛々しい方でした。
偶然目に入って開いた本でしたが、大切なことを忘れていたような気がしました。
(写真は『おばあちゃんの台所修行」より、写真安藤紀夫)

1 件のコメント:

  1. はじめまして。
    昨日図書館で何気なく手にとって読み始めた本の言葉が胸にグッとき、阿部なをさんってどんな方なのかなとPCで検索したところこちらに着きました。

    で、グッと来た言葉が『暮らしの基本を忘れて久しいです。~から始まる一文で、似た感覚を持った方がいらっしゃるのね~とつい書き込んでしまいました。

    「足るを知る」なぞ死語となり、足りない、足りないと求め続けて、
    歯止めのない生活が、本当に人間を豊かにするのでしょうか……。
    すごいタイミングで今の私に贈られた言葉です。
    ありがとうございました。

    返信削除